Scene.17 みんなで歌って踊れる本屋だぜい!
高円寺文庫センター物語⑰
その後の小説が大ヒットして、ブレイクする某ミュージシャン。世間的には売れっ子でも文庫センター的にはスノッブな偽物と言う感じなんだろうな。
無邪気に、たこ焼きを頬張っている連中に話したら大変! 京都は池田屋で尊王攘夷派が、新撰組に襲われた状態と相成った。
「いらん、文庫センターの名折ればい」
「店長、お客さんにバカにされるよ。同じミュージシャン作家でも町田康さんや中原昌也さんとは全然テイストが違うの」
はあ! わが両腕はわかっているって感心したら「その方って誰ですかぁ?」みんな、いっせいに「さわっちょ!」
ボクとしては店作りのポリシーが両腕のバイトくんに理解されてると実感できたから、ノリノリのブギウギトレイン!
「ヘイ! ライクア・ロンリストリィム」って、アタマを歌えばスティービー・ワンダーってわかってカバーして歌いだす、みんなで歌って踊れる本屋!
「また、踊っているんですか」っと、クールな営業の水絵ちゃんがやって来た。
「いまさ、こんなことがあって」と、話せば「確かに。それは、文庫センターにとって良くないと思いますよ」
「だよね! イベントは、どんだけお客さんの魂に響くかだよな」
「本屋さんが、営業的に大変なのは耳タコですけどね」
「生き延びるために、どんな本でも売るってのも考えものだしな。見てる人は見てる、じゃない?!」
「大変にご無沙汰して申し訳ございません。店長、桜桃書房です。
あ、取材中ですか?」
「お久しぶりです!
はい、雑誌の『散歩の達人』が高円寺・中野特集ということで、いま終わりました」
「ご商売の方は、ますますご発展のようですね?」
「いっやぁ、かつてのように一日で領収書が無くなるほどではないですよ。本や雑誌を選ぶ時間がもったいないと、レジにドン! は過去の話で、いまは吟味されて買って行かれる状態です。
本や雑誌代も経費で、落ちなくなっているんでしょうね」
「でもまぁ、大友克洋のAKIRAやレーニンのTシャツにウクレレと可愛らしい駄菓子まで賑やかじゃないですか。
ところで、うちの死体写真集は相変わらずの平積みでありがとうございます」
桜桃書房刊行の、死体写真集『SCENE』は文庫センターではロングセラーになっていた。
確か、当初は13,000円でも売れていた。そこに、6,000円の普及版を出したので山積みしていた。それが売れるのだから、高円寺ならではの思惑にハマった。
これを手にした時に思い出していたのは、書泉時代に法学書を担当した時のこと。書棚の整理中たまたま手に取った法医学書に、強姦されて殺された女性のリアルな写真があった! あの時の、窓から差し込んでいた柔らかな陽射しさえ覚えているほどの衝撃。
やはりメメントモリ=死をこそ想え。自分にも他者へも、一度しかない生を慈しむ優しさがなくてヒトと言えるのか?!
焼き場どころか、霊柩車まで忌避される昨今。意識的に売りたいと思ったのが、この死体写真集だった。
自宅での親族の死も忌避されるいま。ヒトの死が戦場であれ街中であれ、ゴミ同然というのを見て欲しかった!
「桜桃書房さん。つくづく思うんだ。類書もないモノをよく出したなって、それって出版の醍醐味だと思うんですよ。
この写真集は、哲学を持って販売できますからね」